『ライフ・イズ・デッド』(古泉智浩)
『ハイズクール・オブ・ザ・デッド』(佐藤大輔・佐藤ショウジ)
と、続けざまに「ゾンビもの漫画」が2冊も刊行されました。
大変珍しい事態で今後十数年はこういうケースは無いだろうと思われますので
記念にその2冊と僕の手持ちの「ゾンビもの(っぽい)漫画」をレビューします。

まずは『皇国の守護者』の佐藤大輔と『ふたりぼっち伝説』の佐藤ショウジのダブル佐藤による
『学園黙示録 ハイスクール・オブ・ザ・デッド』。
大体ゾンビというバケモノはどうしたって"ザコ集団"であり、ボスがいないので盛り上がりに欠け、
作品内での時間の経過を長く取るのが困難です。
そこで大多数の漫画家は既存のゾンビ像やホラーという切り口を捨て、手を変え品を変えしています。

しかし『ハイスクール~』では真ッ正面から武藤カズキによく似た主人公たちの脱出ホラーサスペンスを描いています。
トーンも鮮やかにスプラッター、パニックサスペンス、生き残り同士の確執、お色気、とお約束連発のほか、
ここぞとばかりにワザを発揮する器用なオタク・指導者気取りのイヤ~なヤツ・
剣道使いの黒髪長髪クールビューティ・ツインテールツンデレ眼鏡少女と2方向においしいキャラも押さえてあります。
単行本1冊でまだ半日も経過しておらず、
キャラにも設定にも頼り切ることが出来ない大変に脚本力演出力を要求されるメソッドに取り組んでおり、
2重の意味で今後も目が離せません。
あと、『ショーン・オブ・ザ・デッド』のショーン(サイモン・ペグ)がチラッと出ており
こういうのツッこんだ方がいいかナと思ったので触れておきますね。

次はケン・フォーリーとトム・サヴィーニの登場を期待します。ビル・ハインツマンとか。

さて次は古泉智浩
『ライフ・イズ・デッド』。
ホラーでもアクションでもないこの作品の主人公・赤星逝雄(アカボシ・ユキオ)は
アンデッドウイルスに感染しており、登場した瞬間に既にゾンビです。
しかも感染経路は噛まれたとかじゃなくて前彼女とのSEX。
伝染した前カノは軽症なのに、当のユキオは政府の定める5段階評価のうちレベル3(要介護)に達しており
優しい家族に囲まれつつもただ死を待つばかりの日々です。
そんなユキオの日常は悲壮ながらもオフトーンな笑いと共に描かれています。
パソコンで作詞作曲したり、前カノに手コキしてもらう代わりに金をせびられたり、

2ちゃんのゾンビ板をROMったり
(書き込まない)
『20世紀少年』を文句垂れながら借りたり…

切なくも情けない日常は、号泣必至の結末を迎えます。
闘病生活・介護・ニート・2ちゃんねると、侘しさと脱力を共に含んだテーマが描かれ、
1冊完結で装丁もカッコイイので、大変オススメです。

あとアマゾンの「こんな商品も買っています」がわかりやすいぞ!

非常によく似たテーマを扱っているのは日野大先生の『
怪奇!死人少女』。
主人公・大原百合は
朝起きたら死んでいました。
しかし普通に意識はあるし、周囲に同じ症状?の人間もいない。
ただひたすら防腐剤を注射し、体が腐敗してゆく激痛に耐えるだけの日々です。
この世でたった一人の孤独なゾンビです。

そのグロ描写はさすが日野御大と言う外無く、読後2、3日はご飯がまずくなる事請け合いです。
中でも凄かったのが…
骨の悲鳴…。マンガ史上に残る"液ダレ文字"です。

この作品の物語もとても悲しいのですが、ラストは85度くらいの斜め上に突き抜けます。
まぁそれは皆さんがご自身の目で確かめてください。
日野先生はこの作品の他にも同じ「動く死体になってしまった主人公」というテーマ、
というかほとんど同じストーリーの作品を多数執筆しています。
「動く死体」の代わりに「奇病」とか「怪物」を入れれば日野作品のうち相当な割合になるでしょう。


動く死体となったスナイパーが人工皮膚をまとって闇のヒーローとなり
なぜか狼男と戦ったりする珍品『
ゾンビマン』もオススメです。
さて、ゾンビであるにも関わらず全然悩みの無い主人公というのもいます。

その代表格が故・玉井たけし先生の『
魔界ゾンべえ』。
当時、世はスプラッターブーム真っ最中。
本屋にズラリと並んだホラー漫画雑誌では御茶漬先生や蕪木先生がバスバス人体を刻み、
宮崎勤事件が起こるまではコロコロのような子供向け媒体にもグロ描写が溢れていました。
そんなマッドな時代に登場したのがゾンべえでした。

文字通り体を張って文字通り小学生レベルのギャグを連発するゾンべえ。なぜだか血は一滴も流れません。
こんなマンガがコロコロに載ってた時期があったんですよ。

玉井たけし先生のご冥福をお祈りいたします。

派生形と言えるのが『
イ尓好!キョンシーくん』。
まぁ当たり障りの無い子供向けマンガであり、なにか書けって言うのも酷な話です。

ゾンビとなった主人公の目線で描かれた作品を紹介して来ましたが、
ただのザコ敵としてのみゾンビが出てくる漫画もあります。

一番に思い出されるのはジョジョの波紋編ですが、こういうのはゾンビもの漫画とは呼べないですよね。
ジョジョのゾンビが特徴的なのは石仮面を中心としたオリジナル設定の下にあるからで、
ゾンビ映画の影響はほとんどありませんが、あの大暴れっぷりはなんだか『バタリアン』を思い出します。

さて最強のバタリアンを思わせるジョジョと対照的に、弱すぎるゾンビが登場するのが『
バイオメガ』です。
まぁ厳密に言わなくてもバイオメガに出てくるのはゾンビじゃなくて「ドローン」なんですが。
ドローンが弱いというより他のキャラクターが強すぎるのです。
最弱層に位置するコズロフというキャラですら
人間の頭脳?を移植した熊であり、冷静に考えたら熊って相当強いぞ。

もう障害物以下の扱い。
登場させる意味あったのかどうかすら怪しくなってきますが、最新の回ではパワーアップ?する動きがあったので一安心。

ある意味バイオメガよりも特殊な世界観を持つのが浜岡賢次先生の短編『
ロメロメ』。

やってることはいつもと完全に一緒なのですが、何でここまで緊張感無いのかと言うと

「
ゾンビに噛まれても牛乳を飲めば平気」という心の底からクッダラネエ設定のおかげ。
しかし今回紹介した作品の中で最もロメロっぽいのも確かです。タイトルだけでなくてね。
真の映画好きである浜岡先生は各所に見た事あるゾンビを盛り込みつつ、かなり深い世界観を提示しています。

「
こいつらとは上手に付き合っていくしかないんだよ」…。
ゾンビを恐怖の対象でも過剰な入れ込みの対象でもないポジションにまで持っていった漫画作品は
『ロメロメ』以外に無いのではないのでしょうか。
近い回答を示唆した本家ロメロの『ランド・オブ・ザ・デッド』にすら先駆けている作品というのもスゴイと思います。
ここで海外に目を向けてみますと、とんでもない作品がありました。『
MARVEL ZOMBIES』。

全てのマーヴルヒーローズがゾンビと化し、唯1人残ったマグニートーと延々と戦う…らしいです(未読)。
ヒーローVSゾンビというワケでも、ゾンビだけどヒーロー魂は忘れない、というワケでもなく
本当にゾンビスパイダーマンがMJ(彼女)を食い殺したりしてるそうな。
この悪ふざけのような作品、相当賛否両論らしいですけどもっともだと思います。

さあ真打ち『
ゾンビ屋れい子』。僕途中までしか読んで無いんですけども。
猫系の巨乳女子高生・姫園れい子は死人をゾンビとして蘇らす事の出来るゾンビ屋ですが、
そのゾンビはいわゆる典型的なゾンビではなく、よくしゃべって大暴れします。
初期はそんなれい子がゾンビ化能力を駆使しつつ様々な事件を解決するという、
やや特徴的ながらもホラーM掲載も不思議では無い内容です。
しかし単行本2巻から予想不可能すぎる怒涛のテコ入れが行われます。

ゾンビ使いが多数登場、召喚したゾンビ同士を戦わせるという斬新すぎる新機軸に持ち込まれます。
なにかが確実に間違った少年漫画風ストーリーになっていくのですが、
三家本先生本人の特性(不慣れとも言う)か、"少年漫画のお約束"がまるで守られず、
特に2~3巻の"リルカ編"は
誰が生き残るのか本当に予測できない驚きの連続です。
「ゾンビ=死人」という設定がミソで、これを利用して死んだキャラをサルベージしたり
ボロボロになった1号ゾンビの代わりに2号ゾンビが登場するなど伏線と後付けの間を行き来するタイトロープな展開が魅力です。
スタンド?何ですかソレは?

さてその三家本先生がゾンビと巨乳の2大路線をさらに推し進めたのが怪作『
巨乳ドラゴン』。
何の説明も無く出現したゾンビとストリッパー(…)たちの血とオッパイまみれの死闘を描く珍作です。
掲載はあのCLAMPに乳首と陰毛を描かせた今は無きヤンマガアッパーズ。
しかし残虐描写が問題になったらしく連載はほぼ打ち切りと言って良い状態で幕を閉じ、
単行本は
何故か講談社でなくぶんか社から出版されています。
連載自体がすでに波乱万丈なので内容は更にムチャクチャに迷走しまくりですが、
今回も三家本先生の
「さっきまで無かったはずの伏線を捏造する特殊能力」が発動して
ラスト直前でタイトルそのものが突如として伏線となり「真の"巨乳ドラゴン"とは誰なのか!」という
作品の根幹に関わる一方で相当どうでもいい謎が明らかになります。
三家本ファンのルフレ王さんに話を伺ったところ、
「三家本先生はブラジャーある/なしでおっぱいの形を描き分けてるのが偉いよね」
と仰っていたのでおっぱい画像を上げておきます。萌えろ!

ここで紹介したほかにも当然ゾンビ漫画は沢山あると思うので、面白いのをご存知でしたら是非ご教授下さい。広がれゾンビ漫画の輪!
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- 2007/03/07(水) 05:11:09|
- 漫画夜話
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| トラックバック:0
-
| コメント:12
>花輪和一の「存美」も良いですね。
知りませんでした。チェックしてみます。
アッパーズでも巨乳ドラゴンの他になにかゾンビ漫画がやっていたような・・・
>「死霊狩り」梁慶一・平井和正
手元に無いというのが取り上げなかった一番の理由なんですが、
ビームで読んでいた時、ゾンビという名前なだけで
別にあのモンスターはゾンビに見えないなと感じたので今回見送りました。
>浜岡はいろいろと映画の要素を取り込もうとしてる・・・
ドタバタギャグがあっという間に飽きられてしまい、下手をすると
「つまんないのにいつまでも連載している」くらいに思われていたりして悲しいのですが
映画好きが描いた漫画としての側面はもうちょっと評価されてもいい気がします。
(ジャッキーチェンが出てきた辺りでなんかちょっと・・・とも思いましたが)
新作の『FIDO』がゾンビと日常生活をミクスチャーした新しいコメディ映画ですね。
http://www.youtube.com/watch?v=9zwtZ49bYJ0
- 2007/03/11(日) 20:08:17 |
- URL |
- 管理人・調布市民 #GNpDnBoc
- [ 編集]
死人が人食いとして復活したり、その犠牲者も人食いになったり、
ほぼ不死身に近かったりとゾンビ物に極めて近いストーリーで、
日本のゾンビ漫画の元祖と言ってもいいほどだけど、厳密には
ゾンビというよりもコンセプト的に寄生獣に近いですね。
ゾンビは一応人間の体のままだけど、ワーストマンは人体を内側から
食い尽くして発生した全く新種の人型生物、という設定だった気がします。
それとも、そういうのもゾンビ物に含めて特に問題なし?
- 2007/04/02(月) 22:21:04 |
- URL |
- 7sea #-
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