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ZOMBIEとは

 
*ゾンビ(zombie)
「ゾンビ」という言葉の定義は大きく二つに分けられる。

Ⅰ:ヴードゥー教の伝承に登場する。魔術によって一度死んで(医学的には仮死状態を経て)蘇った人物。
Ⅱ:主にホラー映画などに登場する。いわば「蘇った死体」であり、人間的な意志は無く、人間を喰らう怪物。
  ゾンビの被害者もまたゾンビとして復活する…という設定が多い。


**Ⅰ 「ヴードゥー教のゾンビ」
このI章はそのほとんどをウェイド・デイヴィスの『蛇と虹』を参考にしている。
この文献は民俗植物学者ウェイド・デイヴィスが科学的にゾンビという怪奇な伝説に迫ったものであるが、
出版自体が20年以上昔の代物であり、完全に厳密な調査がなされているものではなく、多分に紀行文・エッセイ的な書物である。
更に今日様々な異論が提出されていることも強調しておく。


Ⅰ-Ⅰ 概要

ヴードゥー教社会の中で調和を乱す者に加えられる呪術的制裁の一つを受け、意思のない奴隷にされた人間。医学的には生きている。
薬理学的にはフグ毒などによって仮死状態にせしめられた後に墓から掘り起こされ、
精神的ショックとダチュラなどを原料とする薬によって曖昧な酩酊状態に保ち、安い労働力として使われる。


Ⅰ-Ⅱ ゾンビにされた(と主張する)実在の男性、クレルヴィウス・ナルシスの例。

彼はラコウの町に住んでいたが、彼自身の反社会的行動からコミュニティ内で疎まれる存在であった。
また、家庭内では土地に関する相続権をめぐって争いもあった。
結局、家庭内で争っていたナルシスの兄が彼をボコールに労働力として売り払ったと考えられている。
ボコールとは、ヴードゥーコミュニティの"邪術士"である。

ボコールは呪術と毒を用い、ナルシスは病気になった。
彼の病状は悪化し、結局は1962年4月30日午後9時45分、入院先で医師によって死亡宣告が下される。死亡証明書も存在する。

しかしこれは完全な死ではなかった。
医学的な死亡状態と間違えるほど代謝機能が低下していたのである。
彼は後にこの時の体験を語っているが、いわゆる典型的な「臨死体験」にそっくりの内容である。
また、医師の死亡宣告や家族の泣き声が"死亡中"の彼には全て聞こえていたという。

彼は葬儀の後、墓の中で息を吹き返す。
そして掘り出されるとすぐに何者かに殴られ、縛られ、国の北部へと連れて行かれた。
そして2年間他のゾンビたちと共に奴隷として働かされた。
だがある日「ゾンビたちの叛乱」が起きてゾンビの一人が『主人』を殺害した。
解放されたゾンビたちは散り散りになったという。

それから16年間ナルシスは自分を売った兄を恐れてハイチ中を放浪していたが、
死亡後18年後、兄が死んだと聞いてようやくラコウの町に戻ってきたのである。

この事件はハイチ中を駆け巡り、イギリスBBCからはドキュメンタリー番組が製作されている。


Ⅰ-Ⅲ いわゆる「ゾンビ・パウダー」の処方とゾンビ化現象のメカニズム

以下の処方はボコール、マルセル・ピエールの例である。

①死亡一ヶ月以内と見られる赤ん坊の死体の骨。
 これはウェイド・ディヴィスの目の前で墓暴きが行われた。

②殺したばかりの青と虹色のトカゲ。

③乾燥したオオヒキガエルの死体。
 このカエルはゴカイやイソメなどと一緒の容器に一晩入れてから殺された。
 「カエルを怒らせ、毒の威力を増す」とマルセルの助手は語っている。
 実際、ストレスによってオオヒキガエルの分泌する毒の量は増す。

④「チャ-チャ」と呼ばれるネムノキ属の植物。

⑤「ボア・グラア(かゆい豆)」と呼ばれるトビカズラ属の植物。
 ④,⑤共に毒を持つ。

⑥それぞれ「フー・フー(Diodon hystrix)」「海の蟇(Sphoeroides testuineus)」
 と呼ばれる2種のフグ。共に猛毒テトロトドキシンを持っている。


 テトロトドキシンの毒性は猛烈に強く青酸カリの500倍とも言われ、致死率は非常に高い。
 だが、フグ毒によって倒れた者たちの中には、その後息を吹き返した者もいる。
 1977年クリスマスにフグを食べて倒れた京都の男の「倒れていた間」は、
 呼吸は停止し、その他の症状全てが脳死に合致していた。
 しかしながら彼は24時間後ひとりでに息をし始め、最終的には完全に回復したという。

 また、1706年。
 メキシコでスペイン人兵士がボテテと呼ばれるフグの肝を分けて食べた。
 一人は少し食べ、一人は噛んだが飲み込まず、最後の一人は触れただけだった。
 当然ながらこの三人は揃って倒れた。最初の二人は1時間以内に死亡した。
 しかし、最後の一人は翌日まで意識を失っていただけだった。

ボコール・マルセルは「ゾンビ・パウダー」は服用させる毒ではなく、
時にはガラスの粉を混ぜて皮膚に塗りつけて使用することを示唆している。

この事から「テトロトドキシンの皮膚または傷口からの摂取」が
ゾンビ化につながる臨死作用を起こすのではないかとされている。

しかしながらフグ毒の「臨死作用」がゾンビ化現象の原因だと完全に証明されてはいない。人体実験が許されるケースではない。



**Ⅱ 「ホラー映画のゾンビ」
主にホラー映画に登場するモンスター。登場作品によって設定は様々であるが、一般的な設定は以下の通りである。
「ゾンビは蘇った死体である。人間的な精神を持たず、ただ機械的に人肉を求めて己の体を腐敗させながらも徘徊する。
 ゾンビを完全に殺す?ためには脳を破壊するしかない。ゾンビに噛まれた人間は軽傷でも死亡し、彼もまたゾンビとなって蘇る。」


1920年代後半、ウィリアム・シーブルックは一年にわたりハイチのヴードゥー社会で生活し、
その体験を『The Magic Island』という本にして発表した。
この本の影響により、信じ難い事だが「ゾンビ・ブーム」が世界中を席巻した。
オーソン・ウェルズは『ハムレット』の舞台をハイチに変えた劇を上演した。
またこの頃、アメリカのユニヴァーサル映画は『魔人ドラキュラ』『フランケンシュタイン』といった名作を連発していた。
「ホラー映画」「ゾンビ」二つのブームが揃ったのである。

そして1932年、世界初のゾンビ映画『ホワイト・ゾンビ(恐怖城)』が完成した。
主演はホラー映画のスター、ベラ・ルゴシであった。彼の知名度とゾンビブームのおかげでこの映画は予想外のヒットを飛ばした。
これを受けて『ブードゥリアン』『死霊が漂う孤島』など他の会社からもゾンビ映画が発表された。

この頃の「映画のゾンビ」はわれわれのよく知る「映画のゾンビ」とは違い、
怪しげな呪術によって魂を奪われ思いのままに操られてしまう「哀れな生きている犠牲者」である。
そのためか同時期の吸血鬼ドラキュラ、狼男、フランケンシュタインのような人気を獲得することは無かった。
観客はゾンビそのものよりもゾンビにされてしまうこと、怪しげなハイチの魔術師を恐れていたのである。
その背後には白人たちのアメリカの事実上支配下(1915~32)にあった黒人独立国家・ハイチへの、
黒人文化そのものへの恐怖と好奇心があった。

1950年代、SF映画のブームが訪れ一度ゾンビ映画は失速するが、
逆にSF風味を取り入れたゾンビ映画『プラン9・フロム・アウタースペース』などが製作される。
また、1966年の『吸血ゾンビ』には、従来の肌を白く塗って死体風メイクを施しただけのゾンビから大きく一歩進み、
腐りかけた汚らしいゾンビが登場する。
現在一般的なルックスのゾンビが誕生した。

1968年。ジョージ・A・ロメロ監督の『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』が発表される。
ゾンビ映画のエポックメイキングとなった本作に登場するゾンビは
オカルト的背景と知能を持たず、本能的に人肉を求めて喰らい、脳を破壊されるまでは動き回る。
われわれの最もよく知るゾンビの誕生である。

1978年。『ナイト・オブ~』の続編『ゾンビ(DawnOfTheDead)』が発表される。
この映画の大ヒットによって一大ゾンビ映画ブームが巻き起こる。
人肉を喰らい、大量の派手な人体の破壊を伴うゾンビは80年代に迎えるスプラッター・ブームにもってこいのモンスターだったのである。

70年代末から80年代にかけて、イタリアの『サンゲリア』、フランスの『殺戮謝肉祭/屍肉の晩餐』など
世界中で様々なゾンビ映画が量産される。
80年代にはコメディ路線のゾンビ映画『死霊のはらわた』『ブレインデッド』『バタリアン』などが発表される。

しかし『羊たちの沈黙』の大ヒットによってホラー映画界の主流がスプラッターからサイコサスペンスへと移行してしまう。
たちまちゾンビ映画の製作本数は激減し、人気はまた落ち着いた様に見えた。

が、その頃ビデオカメラとVHSの普及と共に自主映画界が80年代末から盛り上がり始めていた。
トッド・シーツ、オラフ・イッテンバッハ、アンドレア・シュナースなどのドイツを中心とした監督らが
80年代から現在まで自主制作ゾンビ映画を量産しているが、
熱烈なゾンビファンやスプラッターファン以外には喜ぶ観客はないと思われる。
日本では自主制作でなく『実録ゾンビ極道』『VERSUS』『ワイルド・ゼロ』といった斬新な切り口のゾンビ映画が製作され、
「ゾンビ映画は日本とドイツが支配している」とも言われる。

1996年CAPCOMからプレイステーション用ゲーム『バイオハザード』が発売され、世界的大ヒットを記録する。
このゲームにはゾンビ(その設定は一般的なものとは大きく違うが)が登場し、
80年代の最盛期をよく知らない若い世代も毎日ゾンビたちとTV画面の中で向き合う事となった。
2001年『バイオハザード』はポール・W・アンダーソン監督で映画化され、これも大ヒットした。

21世紀ゾンビ映画の特徴としては、最盛期のゾンビ映画のリメイクが多い事と、「ランニング・ゾンビ」の登場がある。
緩慢な動きしか出来ないのが一般的なゾンビの特徴であるが、全速力で走り回る彼らの姿は紛争地帯などの暴徒を思わせる。

また、『ドーン・オブ・ザ・デッド(ザックスナイダー監督)』『ショーン・オブ・ザ・デッド』『ランド・オブ・ザ・デッド』など
良作が続けざまに発表されており、2006年現在、ゾンビ映画は再び盛り上がりを見せているように見える。

**参考
『蛇と虹 ゾンビの謎に挑む』 著:ウェイド・デイヴィス 草思社
『ゾンビ映画大辞典』 編著:伊藤美和 洋泉社 映画秘宝コレクション
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  1. 2006/09/14(木) 11:13:15|
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